もくじ
1 日本有数のふかひれ生産地・気仙沼
2 菅原市長が語る「鮫と気仙沼」
3 鮫の水揚げ深夜二時
4 船頭はすごいよ – 延縄漁の男たち
5 大漁そして入札!
6 「鮫のひれ」が「ふかひれ」になるまで
7 真っ黒な鮫のひれが、真っ白に!?
8 干した時間もおいしさの一部!奥深い乾物の世界
9 シェフの手間を肩代わり!戻し済ふかひれ
10 ふかひれだけじゃない!鮫肉も中華に!
11 スープも具もまるごと鮫!驚きの鮫ラーメン誕生

ラーメンといえば、鶏や豚など動物系の出汁をベースにしたものが定番。それがこのたび、気仙沼で水揚げされた鮫のみで出汁をとり、チャーシューの代わりに鮫のトロ肉、メンマではなく鮫の軟骨煎餅を使うという、まったく新しいラーメンが誕生しました。

前代未聞のまるごと鮫にこだわったラーメン。それはいったいどんな調理法で、どんな味に仕上がっているのでしょうか?

●スープのこだわり ●具のこだわり ●食べられる店

 

●鮫ラーメン誕生の背景

その鮫ラーメンの名前は「気仙沼サメ武骨」。開発したのは“革新的で上質なラーメン体験”を打ち出す「麺屋武蔵」です。武蔵さんといえば、今ではすっかり人気になった「つけ麺」を広めた立役者でもあります。

きっかけは、宮城県気仙沼市に拠点を置く「サメの街 気仙沼構想推進協議会」と「麺屋武蔵」の矢都木二郎社長との出会い。鮫の全体活用を進める気仙沼の取り組みを意気に感じた矢都木社長が「鮫でラーメンを作って広めよう」と立ち上がったのです。

開発担当の主浜耕介さん

商品開発を手掛けたのは、麺屋武蔵の10年選手・主浜耕介さん。実は主浜さん、かの湯島聖堂「中国料理研究部」に学んだ小笹六郎さんが開業された「知味斎(ちみさい)」のご出身。その後、同店出身者が切り盛りする「華川菜館」で修行したバリバリ中華畑の方。

中国料理からなぜラーメンに?と尋ねたところ「ラーメンが大好きだったからです。それに尽きます」と力強いお答えの主浜さん。調理師学校に通う学生時代からラーメンをやりたいと考えており、その前に幅広い応用力と食材を扱う力を身につけるべく中華の道に進んだのだとか…!もちろん現在も中国料理店で学んだ技術を、ラーメンの開発に役立てているそうです。

●鮫からとった2種類の出汁をスープベースに

そんな主浜さんが、鮫ラーメンで大切にしたのは「ラーメン1杯に、鮫のすべてを盛り込むストーリーができているかどうか」ということ。

特にスープは検討を重ね、出汁にする鮫をひと晩酒に浸したり、スープの煮込み方を変えたりして何度も試作。その結果、白濁した白湯(パイタン)と透明の清湯(チンタン)を合わせ、コクがありつつスッキリとした味のダブルスープに着地。

鮫も2種類使い分けをし、毛鹿骨(もうかざめ)のガラで濃厚なエキスを作る一方で、吉切鮫(よしきりざめ)の正肉で軽やかなスープを抽出。その2つを鰹節などをベースにした麺ダレと合わせると、軽やかな中にもグッと引き締まった味わいの、どこか和風なラーメンスープの誕生です。

●鮫てんこ盛り!鮫ラーメンスープはこうして作る

どざあっと毛鹿鮫のアラを湯に投入。スープの香りを大切にするため、何度か熱湯に通すのがポイント。

 

毛鹿鮫のアタマも投入。ちなみにこの頭だけで1つ850gあります。

 

鮫のアラを香味野菜とともに煮込み、鮫白湯を作ります。20リットルの寸胴で作り、最終的に15リットルまで煮詰めます。

 

たっぷりの香味野菜もラーメンスープの必需品。中華スープの定番、ねぎ&しょうがは必須。トマトが入ると旨みが増すのだそう。

 

こちらが鮫ガラと香味野菜を15リットルまで煮詰めた鮫白湯。

 

一方こちらは透明感あふれる鮫清湯(サメチンタン)。吉切鮫の正肉をプロセッサーでミンチにし、しょうがを入れて仕立てます。これがなんとも唯一無二の鮫らしい香り…!

 

鮫白湯と鮫清湯を一緒に沸かしたら、ベースのスープのできあがり。

 

麺ダレを入れた器にスープを注ぎます。鮫のダブルスープは、すっきりしつつもコクがあり、鶏や四足動物にはない軽やかさ。

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鮫まめ知識

毛鹿鮫(もうかざめ)は肉や骨がしっかりしており、気仙沼では心臓を刺身で食される鮫。吉切鮫(よしきりざめ)は、そのヒレがふかひれとして国内で最も流通しており、身は軟らかで、はんぺんや練り製品などに加工されています。

毛鹿鮫 吉切鮫

参考:鮫の水揚げ
「鮫からとった2種類の出汁をスープベースに」戻る▲

 

●具も鮫尽くし!鮫トロ肉&鮫の軟骨揚げとは?

さらにこの「気仙沼サメ武骨」、具にも鮫を使っているのもこだわりです。「鮫の各部位を、ラーメンの基本形にどう当てはめるか?と考えました。その結果、チャーシューにぴったりだったのが“鮫のトロ肉”。吉切鮫の鮫の尾の根本部分に当たる、コラーゲンたっぷりの肉です」と主浜さん。

こちらが尾の根本部分。

この部位は特にゼラチン質が豊富で、煮込んで冷めると煮凝りとして固まってしまうほどプリンプリン。骨がついたままチャーシューだれで煮込むと、コクのある、とろけるように軟らかな煮込みに…!これはこのままごはんに載せて、鮫チャーシュー丼としても売り出せそうですよ。


鮫トロ肉の煮込み。豚肉のように見えますが、脂肪分はほとんどなし、ゼラチン質たっぷり!

さらにトッピングにもうひと工夫。「鮫の骨は軟骨なので、煮込むと骨まで味が染みるんです。そこで、身を外して味の染みた軟骨を取り出して揚げてみたところ、香ばしく、適度に弾力もあっておいしかった。見た目や食感のアクセントにもなるので、メンマの代わりに揚げた鮫軟骨を使っているんです」。

ちなみに鮫軟骨は、関節痛や五十肩などの方にうれしい「コンドロイチン硫酸」が含まれる食材として、医薬品や健康食品の世界では知られた存在。これを食材として使うのはなかなか贅沢…!


煮込んで鮫トロ肉を外した後の軟骨を揚げてトッピング。これはユニーク!

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●店と開発、二人三脚で作り上げるこだわりの一杯

「麺屋武蔵武骨」店主の坂本潤(ひろし)さん

“鮫尽くし”なラーメンの骨子ができた後は、実際に提供する店と味やオペレーションの調整を経て商品化されます。

「この話を聞き、社長から『やってみたい店は?』と聞かれたとき、真っ先に手を挙げました」というのは、このラーメンを提供する「麺屋武蔵武骨」の店主・坂本潤(ひろし)さん。それもそのはず、「麺屋武蔵」の中でも御徒町の「武骨」は、馬骨、猪(いのしし)、味噌ガーナなど、ラーメンの概念をくつがえす限定麺が評判の店。「鮫」もまた、力強く革新的なラーメンを目指す「武骨」のイメージそのものだったのです。

「コクがありつつも、スッキリとしたスープには迷いなく細麺です。ヘルシーに全粒粉麺を使って味のバランスを整えつつ、鮫トロ肉の煮込みに根菜の煮込みを付けて、秋らしく仕上げました」と坂本さん。仕上げには椒油をサラッとかけますが、これが絶妙に味を引き締める隠し味に!

麺は全粒粉を使用。

麺、スープ、具を1つの椀に盛り付けるラーメン。この一杯のために吟味された素材と調理法があり、作り手の情熱注がれているかということが実感できた「麺屋武蔵」の気仙沼サメ武骨。なんとこれが1杯860円(税込)で提供されるというのですから驚きです。

販売は御徒町「麺屋武蔵武骨」にて、10月27日(月)より1日限定20食。鶏や四足動物の出汁では決して味わえない、鮫味・鮫尽くしのラーメンを体験しに、ぜひこの機会に足をお運びください。

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気仙沼サメ武骨 860円(税込) ※1日限定20食

提供店:麺屋武蔵武骨(ぶこつ)
住所:東京都台東区上野6-7-3
アクセス:JR御徒町北口より徒歩3分
営業時間:11:00~22:00
TEL:03-5812-4634
年中無休

 


構成・文 佐藤貴子/ことばデザイン
撮影 丸田歩