当コーナーは「中華好きを増やす」というミッションのもとに集まった、同士たちのトークセッション。中華を愛し、中華に一家言あるメンバーが、円卓と料理を囲んで、熱く語り尽くします。

※このシリーズは、3月8日に新橋亭新館にて行われた座談会「第1回 中華好き人口を増やす会」の模様をお届けします。


2012/5/11up

[3]Cook Do(クックドゥ)の定番 VS バーミヤンの定番

― Cook Do(クックドゥ)の商品化にあたっては、市場の知名度は、かなり調査されるんじゃないですか。

味の素 古川光有氏
古川 そうですね。やっぱりお客様にとっては、よく知っているものほど手に取りやすいという形になりますので、知名度もわきまえた上で行っております。
また、中国現地からメニュー、味付けを紹介してもらっては、日本人の方に食べやすいアレンジを施してっていうことを30年間近くやってきています。
しかし正直言いまして、Cook Do(クックドゥ)を34年間もやっておりますと、おおかたのメニューが一巡か二巡しているんですよね。それと最近のご家庭では、もはや和洋中というメニュー発想がほとんどなくなっている状況ですね。
逆に言うと、それだけ中華が身近なメニューとして、日本の家庭にずいぶん浸透していると言えます。それを我々は、中華はもはや日本に帰化したんじゃないか、なんて言ってるんですけどね。

― なるほど。

古川 つまり、中国料理の第一回目のステージはここ数十年のうちに終わっていて、次の日本の中華がこれからの発展形としてあるだろうと思うんです。

それは、どこの国に行っても必ず中国料理があってーー、シンガポールでもそうですし、アジアならアジアでそれぞれの良さを活かす形で、その国々に根ざした新しい発展形がある時期から生まれているからです。

日本でもまた、いろんな料理を取り入れていく良さがこれから発揮されて、新しいステージに行ってくれるんじゃないかな、と期待しているんですが。

― 「一巡した」と思われた時は、いつぐらいのことで、どういう状態だったんですか。

古川 そうですねえ…、例えば酢豚ひとつとっても、この10年ぐらいで黒酢の酢豚のバリエーションが出されるようになってきていますよね。

― 確かに。

古川 でも、それをCook Do(クックドゥ)の新商品として作ったとしても、一時期は売れるんですけど、やっぱり従来の味付けの酢豚の方に戻られることが多いです。

それは、ご家庭で食べられる中華と、外で楽しむ中華の線引きみたいなものがあって、ご家庭ではわりと定番的なもの、一皿でご飯のおかずとして完結するようなものが好まれる傾向にあり、新しい味付けは外食で広まった後、だいぶ経ってからご家庭に入ることもある…ということだと感じています。

― 外食では人気でも家では食べない料理というと、酸辣湯もその仲間かもしれません。

古川 そのとおりですね。酸辣湯と、さきほど話に出ました“鶏カシュー”(鶏とカシューナッツ炒め)も女性にすごく人気があって、Cook Do(クックドゥ)でも発売していますが、実はそんなに上位ではないんです。でも、若い女性と中国料理店に来ると、必ず頼まれるんですよね。

Cook Do(クックドゥ)「鶏とカシューナッツ炒め用」
鶏とカシューナッツの炒め

― 若くない自分を振り返ってみても頼みますよね。

古川 もう、女性は大好きですよね。

― ナッツがいいんでしょうね、女の人は。

古川 ええ、ちょうど、少し香ばしくなったような感じのナッツがね。

― そう思うと、店でよく頼まれているのに、家庭では身近じゃない中華は多いですね。

酸辣湯

古川 はい。ですから今は料理の知名度に限らず、お客様、つまり主婦のみなさんのメニューに対する考え方に沿って、調理しやすいとか、試してみやすいところからアプローチしていくことが多いです。

― やはり簡単にできるものが一番と。

古川 そうですね。身近な素材で、手軽に調理できて、という要素が求められています。

時代は甘旨(あまうま)&スパイシーに

― 売れ筋はどうですか。

古川 実はここにありますけど、「回鍋肉(ホイコウロウ)」が今年、大爆発しましてですね。

Cook Do(クックドゥ)回鍋肉用

― どの辺に勝因があったのでしょう?

古川 まあやっぱりご家庭で作りやすいこと。豚バラとキャベツがあればすぐできる。

髙橋 商品化されて何年くらい経ちますか。

古川 最初に発売した6アイテムの中に入っています。

髙橋 そうすると、1978年から?

古川 そうですね。今、Cook Do(クックドゥ)のラインナップは30種類以上あるんですけど、最も歴史があって、最も売れているということになります。我々も回鍋肉というとちょっと古いメニューかな…と思ってたんですけど、お客様も代替わりしていますから。

福島 それと、回鍋肉でCM作ったでしょう?

古川 広告をとにかく変えました。

福島 食べてる瞬間の、頬張ってるような。あれ、すごいインパクト強かったと思います。

古川 ありがとうございます。

福島 あのCMを見ると、みんな回鍋肉食べたいって言いますよ。うちでも出てきますから(笑)。

古川 実は私のかみさんは、回鍋肉ってあんまり好きじゃないんですけど、我が家でも同じ変化が起きてました(笑)。

田中 「ホイ来たホイの回鍋肉」って、私たちが中国語を覚えた時は、そう言ったもんだ。

一同 笑

田中 回鍋肉は季節を選ばないよな。

古川 定番の中では、今年すごく注目されてます。

髙橋 しかし長年の間に、少しずつ味を変えていますよね?

古川 そうですね。10年タームで見ると、お客様の嗜好もだいぶ変わってますので。

― どういう傾向がありますか。

古川 全般的な傾向でいくと、この10年で甘旨(あまうま)な方向に来ているのがひとつ。もうひとつは、香り立つ方向ですね。辛くて香る、みたいな。けっこうスパイシーで強いもの、それがトレンドとして来ているような気がします。

― 新橋亭さんは老舗で息が長いですが、その中でも特に長く愛されている料理というのはなんですか。

田中 東坡肉(トンポウロウ)ですね。東坡肉って、昭和20年代にはニッキ(肉桂)とか、八角とか、丁子なんか入れてたの。

でも、日本人って香辛料はもともと、そんなに強く必要としてなかったわけです。で、日本人に最も好まれる味付けって何だろうということで、考えたのが味噌を入れて煮込んだ東坡肉。

古川 日本の味噌ですか。

田中 そうです。発酵した調味料の旨みが日本人に受け入れられるんだろうね。これは昔から愛されている、新橋亭の味付けのひとつです。

家族で火鍋のバーミヤン

― バーミヤンさんの人気料理は、どんなものがありますか。

福島 実はここのところ、ずいぶん流れが変わりまして。

「バーミヤン」福島氏

― ここ1~2年ですか。

福島 そうですね。よくある定番料理は依然販売数はあるものの、食べ方がけっこう変わってきているんです。本格派志向です。

そのひとつとして、実は火鍋の食べ放題をやってるんですね。一部の店舗ではありますが。で、それがなぜか、ものすごく出てるんですよ。

― それは通年ですか。

福島 通年やっています。最初は10店ぐらいから実験的に始めたんですけれども、今はもう160店ぐらい。導入して店でずっと売れ続けてきたことから、ここまで来てしまいました。

白湯と麻辣湯の二層で楽しむ鴛鴦火鍋。

しかし今まで食べなかったものが急に売れるようになったのはなぜなんだろうな、なんて思いまして。ちょっとお客様の声を聞いたりすると、やっぱり家庭では食べられないちょっと変わったもの、作れないものを外食で食べたい、というんです。

ただ、それぞれのご予算はあるので、あんまり高いと食べられない。で、よくあるしゃぶしゃぶ食べ放題の店は2,000円から3,000円で、値段によって豚肉だけだったり、牛肉も選べたりしますが、バーミヤンの火鍋は1,680円。しかも牛肉も豚肉も好きなだけ取れる。それがものすごく反響がいいんですね。

そして、週末だけ食べるのかなと思ったら、平日でも食べている。それも家族で食べているんですよ。これはずいぶん変わったなと。そして、今までとは全く違うお客様が来るようになったもんだから、勝手に業績が上がっちゃったんです。

やはり最近開発していて感じるのは、ちょっと食べたことないものを、お手軽な価格でやると反応がある、ということですね。

おこげのシズル感こそ中華の魅力

福島 あと、おこげってそこそこ高級な飯店に行かないと食べられないじゃないですか。それを700円くらいで出せないか、っていう挑戦をして、冬のメニュー改定でやったらものすごく大ヒットしたんです。

「バーミヤン」のおこげ

― おこげは初導入なんですか。

福島 ええ。関西では実験的にやったことがあるんですが、関東では初。で、入れてみたらものすごく反応があって、おこげってすごく売れるんだな~っていうことを今回実感しています。

― 香ばしい匂いで、客が客を呼ぶんですかね。

福島 あの香りとか、やっぱり家じゃできないことですよね。揚げたおこげにこう、あんかけが…。

― じゅわっという。

福島 ともかくおこげはすごいです。もう、売り切れちゃうぐらいのところもあって。

― そんなにすごいんですか。

福島 よくよく考えてみたらおこげってご飯ですよね。さらによくよく考えてみたら中華丼じゃないですか(笑)。しかもここにかけている餡は、普通の五目と変わらない。なぜそんなに反応するのかと。

南條 やっぱり音がするところがいいんじゃないですか。

福島 うちの場合は、そのベストタイミングは作れないので、どちらかというと「お客様が好きなタイミングでかけて、軟らかくしたい場合は浸して食べてください。おこげの食感を残したい場合は、半分かけないで食べてください」っていうようなトークでやってるんですけどね。

― ジュッとはいうんですか。

福島 餡をすぐにかければジュッというんですけど、いわない時もあるので、敢えてジュッといいます、とは言ってないんですよ(笑)。お好きなタイミングで食べてください、みたいな。

そうすると皆さんおこげをね、お皿に一つずつ載せて、餡をかけて食べるんですよ。そういう食べ方もあるんだ!というのも新鮮で。

― じゃ、なかなかジュッといわないですね。

福島 いわない。いわないんですけど、それでもクレームは一件も出てないです。

南條 どういうことですか。

福島 あと、浸して食べてる。「ひたパン」っていうの、味の素さんがやってますよね。

南條 ああ、それは面白いですね。

福島 餡としてかけるんだと思ったら、お客さんはつけて食べたり、一個ずつ取り分けてシェアして食べられたりする。そういうことも含めて、おこげはかなり面白いんですよ。

― そのスタイルから新メニューが生まれそうですよね。

福島 素材としては同じものなんだけど、食べ方の提案というか、今までと違う食べ方を見せると、それがすごくよかったりする。別に、ものすごく知恵を絞ってやったわけではないんです。

ただ、おこげというのをファミリーレストランで出したことないので、やってみたらどうかなと思って軽い気持ちで始めたら、何かずいぶんと反響があって、逆に驚いて、そういうものなのか!と。それで振り返ってみると、食べたくても食べられなかったもののひとつなのかなと。

古川 確かに、うちではなかなか食べられませんからね。

福島 そういうことなのかな、なんて。

>NEXT TALK 「おこげ・火鍋談義」


>>今までの「中華好き人口を増やす会」一覧


Text 佐藤貴子(ことばデザイン)
人物撮影 林正