皆が魅了される名店の看板娘。その接客スキルはどうやって磨かれたのか…?中華のサービスプロ列伝、シリーズ始まります!

井桁シェフも絶賛の看板娘、熊谷さんとは?

「お電話ありがとうございます。飄香(ピャオシャン)本店、熊谷がうけたまわります」

予約時に聞くその声は、顔が見えなくても笑顔を連想させる朗らかさ。それでいて落ち着きがあって、温かみのある声色です。

「飄香 麻布十番本店」(※以降「飄香」と略)では、電話をとったスタッフが、まず名前を伝えます。それは、そのほうが後々スムーズで、常連のお客さんも楽に話を始められるから。

特にこの声の主・熊谷泰代(くまがえやすよ)さんを慕う常連は多く、電話越しにも人をほっとさせてしまう看板娘。

飄香 麻布十番本店

熊谷さんは現在「飄香」歴4年目の35歳。サービスマネージャーも務める彼女のことを、井桁良樹シェフは「お店の顔ですね。料理だけでなく、熊谷さんについて話してくれるお客さんもよくいるほど。空気を読んで話ができる、絶妙なバランス感覚を持ちあわせているんですよ」とベタ褒めします。

「実は代々木上原時代の第一印象から違いがありました。面接の前日、店の前のメニューをずっと熱心に見ている子がいて、“ああいう子が来たらいいなあ”と思っていたら本人だった(笑)。初日から、地元の人のように電話で道案内もできて、なかなかそういう人はいませんよ」

デ、デキる女性! しかも癒し系のかわいいヴィジュアルであったりもする。そんな熊谷さんの心に残るサービススキルはどう培われたのか、今回はそのバックグラウンドに迫ります。

名門フレンチへ直談判!「一番おいしいと思った店で働きたかった」

埼玉に住む子供時代から、食への好奇心が強かったという熊谷さん。小さいころから、料理をするのもクッキング番組を見るのも好きで、もちろん食べることも大好き。高校卒業後は自然な流れで、調理師学校に進みました。

入学後は進路のことも考えながら食べ歩きをするうちに、惹かれていったのがフランス料理。アルバイトで稼いだお金をもとに、いくつもの店に足を運び、最も印象に残ったお店が神楽坂の「ラ・トゥーエル」。そしてなんと、数日後には店で働きたいと直談判の電話をかけた。まるで料理人の就職話のようですが、熊谷さん、実は調理場志望だったのです。

熊谷泰代さん

「『ラ・トゥーエル』には食事に行って、料理の素晴らしさに感動して電話をしました。女性が調理場に入るのは難しいとのことでしたが、『サービスでなら』と店に入ることに。当時は接客をしながら少しずつ認めてもらって、調理場に入れたらいいなという思いでしたね」

かわいらしいお顔でいて、素晴らしい行動力と意志の強さ。入社後は、サービスだけでなく、掃除やテーブルの準備、時には賄いの食材調達も担当。「あの時代がなかったら今はない」というほど鍛えられたそう。

「ソムリエでもある支配人はじめ先輩方が、何も知らない自分を教育してくださいました。ワインの開け方も丁寧に教えてもらえましたし、何より一流のサービスの所作を毎日まのあたりにできたのが大きかったです」

その「ラ・トゥーエル」で働いて2年半が経ったころ、大きな転機が到来。結婚と出産がきっかけとなり、店を離れることになったのです。しかし、彼女は飲食への復帰を諦めませんでした。その次のステップとして選んだ仕事とは…?