INDEX|自家製中華干し肉、腊肉(ラーロウ)を作ろう

① 肉の選び方
② さっぱり塩燻製
③ こっくり醤油味
④ 腊肉料理2選
⑤ 手抜き干し肉
⑥ 腊肉の地域性←いまココ

腊肉(ラーロウ)は、ひと言でいうと干し肉のこと。広義には、醃肉(イェンロウ)、すなわち塩や醤油で漬けた加工肉の一種と捉えるとわかりやすいです。

その腊肉がさかんに作られるのは冬。そもそも中国語で「腊」は、旧暦12月の別称(2018年が1月17日が旧暦12月1日)。その時期に干したり、さらに燻製した豚肉を、腊肉と呼んできた歴史があります。

また、魚を干せば腊魚、鴨なら腊鴨とバリエーションも。冷たく乾燥する季節に中国を訪れれば、あちこちで肉や腸詰を干している風景を目にします。

そこで、中国では地域によって作り方にどんな差があるのか、産地として著名な湖南、四川および重慶、広東、そして上海の腊肉づくりについて、識者に話を聞きました。

湖南省 ▶重慶市 ▶四川省 ▶広東省および香港 ▶上海市


【湖南省】米糠で燻製。調理は米のとぎ汁で煮込むと美味!

話し手:王宝山さん
料理人歴28年の40代。湖南省長沙で、郷土料理の人気店「老板农家乐」を17年間経営中。今冬「味坊」グループの料理人として来日。
80Cの記事:発酵・燻製・ハーブが織り成す湖南料理「香辣里(シャンラーリ)」

湖南の腊肉の特徴は何だと聞かれたら、米糠で燻製することでしょうね。田舎の農家では、かまどの上に肉を干し、料理を煮炊きする際に出る煙で燻します。

王さんの店「老板农家乐」の厨房にある腊肉。塩気と燻香をまとっています。

燻製は長いもので3カ月くらいでしょうか。時間をかけてゆっくり燻製すると、脂まで風味が染み込む上、保存性もよくなります。3か月も燻製すれば、だいたい半年から8カ月くらい常温で日持ちしますね。

腊肉の腊は旧暦12月のことですから、その時期に仕込むのが毎年の習慣。私はだいたい晩秋から2月、3月くらいまでの間に1年分の腊肉を作ります。干す前に、肉に塩と花椒など揉み込むところもありますが、私は塩だけです。

自家製の腊肉を手にした王宝山さん。こちらは日本で5日間干し、米糠で燻製。

有名な産地は、湘西トゥチャ族ミャオ族自治州と岳陽市(※地図参照)。違いは、湘西は豚を骨付きのまま、岳陽は豚バラ肉を干していることです。骨付き肉の場合は、骨を外してから肉を片(薄切り)にして、唐辛子等で味付けをして、蒸しものに使うことが多いですね。外した骨は具の下に敷きます。

腊肉は皮付き豚バラ肉で作ります。「皮がしっかり硬くなることが肝心」と王さん。

料理人としては、骨なしの方が調理には楽ですが、やっぱり骨付きはおいしい。私の好みの部位は脚肉。調理は炒めものが多いです。炒飯もあります。

煮込み料理の場合は、米湯(米のとぎ汁)で煮るんですよ。そうすると、腊肉の燻製香と米の香りがあいまって、とても香りよく仕上がります。合わせる食材は、藜蒿(セイタカヨモギ)、タケノコなど歯ごたえのあるものです。

長沙「老板农家乐」の料理。葉にんにくや泡辣椒とともに炒めています。

また、湖南ではレバー以外、豚のすべての部位を干します。腊腸、腊肚(胃袋)も人気ですよ。これも炒めたり、汁気のある煮込み料理などに使い、藜蒿、葉にんにく、唐辛子などと調理します。

さらに腊肉に似たものとして、風吹肉(フォンチュイロウ)というものもあるんです。これは燻製にせず、塩を揉み込み、約1か月風干ししたもので、腊肉と同じように使っています。

風吹肉。こちらも5日間干したものです。

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【重慶市】城口老腊肉が有名。塩漬けし、柏の小枝や葉、芝で燻製するのが王道!

話し手:陳朝琰さん
重慶生まれの重慶育ち、重慶在住という生粋の重慶っ子。学校勤務の30代。

重慶でよく見る腊肉は、塩漬けと醤油漬けがあります。正確には、塩漬けが腊肉、醤油漬けは醤香腊肉と呼ばれます。重慶というと辣味(辛い味)が特徴と思われるかもしれませんが、辣椒粉(唐辛子粉)を塗って干したものは、伝統的な腊肉ではないと思います。

重慶の市場にある「鸡蛋腊肉店(卵と干し肉の店)」。 「土猪」とは中国の農村育ちの豚という意味。「正宗」という言葉と合わせて、トラディショナルスタイルの干し肉であることを謳っています。

さらに腊肉は、燻製しているか、していないかでも大きな違いがあります。燻材には柏(重慶弁で「ベスー」または「ベズ」)の小枝や葉、米糠(重慶弁で「カーンコ」)が使われることが多いです。

私は自分で燻製したことはないのですが、5~12時間くらい燻製すると聞いたことがあります。長い時間燻製すると、保存しやすく風味もよくなると考えられており、長く燻製したものは「老腊肉」とも呼ばれます。

部位はおおむね皮付きの豚バラ肉を使いますが、他の部位でも、内臓でも作りますよ。塩漬け、醤油漬けともに3~4日ぐらい漬け込み、陰干しにします。家で作る人と買う人のどちらが多いかといえば、買う方が多いでしょうね。漬けて干すところまで自分でやって、燻しだけ専門店に依頼することもあります。

重慶郊外の農家楽(農家レストラン)にて、干した猪舌(豚タン)と腊腸の盛り合わせ。

有名な産地は、市の中心部から北東にある城口県。ここの腊肉は「城口老腊肉」と呼ばれ、農家燻製方(農家自家製の燻製した腊肉)が人気です。柴を使って燻していて、都会の排気ガスの臭いがつかず上品。もちろん柏樹を使うこともあります。しかし最近では、燻製そのものが大気汚染に繋がるといわれ、燻製タイプが減ってきているのが現状です。

調理は炒めたり煮たりすることが多いです。例えば、腊肉炒紅薯干(干し肉と干したサツマイモの炒めもの)は私も作りますし、青蒜(葉ニンニク)や青椒(青唐辛子)と一緒に炒めたり、泡辣椒(唐辛子の漬物)を使って煮込みにするのも家常菜(家庭料理)のひとつです。

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【四川省】塩漬けして干すのが腊肉の基本。醤を塗って干すのは別名称

話し手:荻野亮平さん
福岡市「四川料理 巴蜀」店主。1980年代から2000年にかけての四川料理を中心に研究、提供。2001年、四川大学に1年間留学した経験あり。奥様は成都育ち。
80Cの記事:四川料理マニアックス★唐辛子テイスティング四川料理 巴蜀

僕は塩で仕込んで干すものと、塩で仕込み、干してから燻製するものの2つが腊肉だと認識しています。

甜麺醤や豆板醤を塗ったものは醤肉という認識で、さらに豆板醤を塗ったものは、干したウサギなどを豚肉にやり替えたもので、醤肉でもないのではないかと感じています。醤油漬けは四川では見たことがないです。

成都青羊区大紅菜市場の一角。

『中国烹饪辞典』を見ますと、「腊」は「原料(肉や臓器)を醃し、燻製し、干したものを言う。多くは腊月に醃が行われるのでその名がついた」とあります。では「醃」とはなにかというと「材料を切って塩で揉んだり捏ねたりして一定時間おくもの。塩や醤油でやる料理の下味つけも醃法の一種」とあります。

また、宋代に編集された百科事典のような民間書籍『事林广记』には「腊肉は塩で3から5日漬け込み、酒、酢を入れて再び3から5日漬け込み、干し、沸騰したお湯にさっと通し、すぐごま油を塗り、柏で燻製にする」とあります。

燻材は『经典川菜』によると「柏树桠(かしわの小枝)、松树锯木屑(マツのこくず)、花生壳(ピーナッツの殻)柳丁皮(オレンジの皮)、甘蔗皮(サトウキビの皮)」とあります。柏、マツ、クスノキ、ピーナッツあたりは樟茶鴨で一般的ですが、オレンジはやったことがないです。

四川の腊肉に限らず、他の地域のものも合わせて考えてみると、旧暦12月に干すことにこだわらず「干したら腊肉」に落ち着くのかもしれませんね。

成都の街角。街路樹にも干す!(2017年1月撮影) 

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【広東省・香港】香港の臘肉は醤油や味噌漬け、広東省は塩漬け。臘腸はバリエーションが多い

話し手:佐伯悠太郎さん
「聘珍樓」「赤坂璃宮」などを経て香港へ。ワーホリ期間中に4店舗で働き、帰国後「楽記」の料理長になるという広東畑の料理人。2017年、南米と西ヨーロッパを周遊。2019年「サエキ飯店」開業。
80Cの記事:香港ワーホリ料理人サエキ飯店

僕が修行した香港では、臘肉(ラプヨッ ※腊肉の広東語表記・読み)です。は一般的に醤油漬けです。臘肉や臘腸は年間を通じて店頭に並んでいますね。味噌漬けは「封肉(広東語でフォンヨッ)」または「醤肉(広東語でジョンヨッ)」と呼ばれ、10月頃から店頭に並び始めます。

左下が醤油漬け、右下が味噌漬け。 

醤油漬けの基本的な作り方は、醤油、砂糖、玫瑰露酒(ハマナスの酒)に1~2晩漬け、さらにたまり醤油を加えて色をつけ、4日以上風干しします。味噌漬けの場合は、合わせ味噌に漬けたものを、沙紙で巻いてから風干しします。こちらは醤油漬けにと比べると、乾燥は弱めにします。

広東省仏山市順徳地方の市場に並ぶ臘味(ラプメイ:臘肉や臘腸など、漬けて干したもの)。「この市場では、乾かし方や味付け、切り方が異なる三種類の醤油漬けが売られているのを見ました」と佐伯さん。

一方、広東省の一般家庭で肉を干しているところを見ると、醤油漬けよりも塩漬けのほうが、見た回数ではダントツに多いですね。

順徳地方の市場に並ぶ臘味。豚肉以外もあります。

そもそも香港や広東省では、臘肉よりも臘腸(腸詰)の方が人気があるからか、臘腸は脂の割合を配合を細かく変えて作るなど、種類がかなり豊富です。一方、臘肉はそのようなことはなく、店や家庭それぞれのやり方という印象です。調理するときは、臘肉も臘腸もさっとボイルしてから、蒸したり土鍋ご飯にしていただきます。

広東省の臘味店にて。臘肉は脂多めor少なめが選べ、臘腸はそれに加えて、干し椎茸入りや玫瑰露酒風味なども選べます。

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【上海市】醤油肉が主流。塩漬けは春先の家庭料理にマスト

話し手:山口祐介さん
「中華香彩JASMINE」グループ4店舗を率いる総料理長。中国各地の料理を手掛ける中でも、江南料理に造詣が深く、現地の家庭の味から高級レストランの味まで知り、再現してきた料理人。
80Cの記事:家で中華:獅子頭中華宴席:揚州宴

上海の干し肉は、豚バラ肉を、老抽、砂糖、紹興酒、八角、花椒、桂皮で漬け込んだ醤油肉が主流で、醤油肉とも腊醤肉とも呼ばれます。塩漬けは咸肉(上海語でエニョ)、または腌肉(上海語でイニョ)と呼び、粗塩、花椒、白酒、干した太い生姜を大き目にカットして揉み込みます。

燻す場合は、熏腊肉と呼んで区別しますね。これらは上海市内の市場やスーパーで湘味腊肉、川味腊肉といった名称で見かけはしますが、上海人の家庭の台所にまでは普及していないと思います。上海の伝統的な腊肉には、燻して作るものがないからですね。

上海の「上海市第一食品商店」の肉加工品売り場。手前に醤油肉が真空パックで売られています。

豚バラ肉で作る場合、半月~1ヶ月くらい干し、中の脂が表面に滲み出てくると、完成の目安となります。元々腊肉は保存食としての側面もあるので、寒い時期にその脂で肉がコーティングされるまで干し上げれば、その後も傷みづらいと考えられているからです。

ただ、その状態ですと、脂がやや酸化したような香りになり、日本人に好まれる風味とは異なってきます。そこで、うちの店では腊肉の風味を持たせながらも、おいしく食べれるセミドライの状態で仕上げています。今は冷蔵庫もありますからね。

調理するときは、紹興酒をかけて15~20分蒸してから使います。上海では、春先に、旬のタケノコ、金華ハム、塩豚(腌肉)を入れた煮込みスープを作るのが定番。これを「腌笃鲜(上海語でイトシ)」といいます。腌と鮮を煮る(笃:とろ火で煮込む)、という意味で、店でも季節になると出している料理です。

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各地域の腊肉 まとめ

こうして話を聞いてみると、腊肉は地方によって、漬け方、干す日数、燻製するかしないか、燻製の材料の違いなどがあるようです。内容をまとめると、以下のようになります。

湖南【漬け】塩【燻材】米糠
重慶【漬け】塩、醤油【燻材】柏の小枝や葉、米糠、芝
四川【漬け】塩【燻材】柏の小枝、松のこくず、ピーナッツの殻、オレンジの皮、サトウキビの皮
広東・香港【漬け】醤油、味噌、塩【燻材】燻製はあまりしない
上海【漬け】醤油【燻材】燻製はあまりしない

さらに同じ作り手でも、所変われば湿度や気温をはじめとする環境、地域ごとに好まれる料理や風味が異なるため、作り方を変えていく必要性も出てきます。

例えば、湖南省出身の王さんは、東京では厨房のスペースやオペレーションの観点から、軽く燻製して5日干しという製法で仕上げていました。大別すると、塩漬けが主流の地域は燻製も行い、醤油漬けが主流の地域は燻製しないといえそうです。もちろん、同じ地域でも作り手による製法の違いはあります。

また、ここではご紹介しませんでしたが、貴州省の真っ黒に燻製された腊肉も名物のひとつ。「腌腊制品」いう観点でみると、陝西省では羊肉やロバ肉、雲南省や甘粛省では牛肉、江蘇省南京名物の鴨肉と、ほかにもさまざまな肉の漬け干し文化があります。

貴州省黔東南苗族侗族自治州雷山県西江鎮「西江千戸苗寨」で売られていた腊肉。 

ひとつ言えるのは、腊肉づくりの基本は「漬けて、干して、好みで燻すこと」であり、それほど難しいものではないということ。当シリーズ記事をご覧いただき、冬の天候と時間を味方に、自分好みの腊肉を作っていただけたら幸いです。

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① 肉の選び方
② さっぱり塩燻製
③ こっくり醤油味
④ 腊肉料理2選
⑤ 手抜き干し肉
⑥ 腊肉の地域性←いまココ

TEXT:サトタカ(佐藤貴子)
PHOTO:小林淳一(湖南省)、佐伯悠太郎(広東省一部)、小杉勉(貴州省西江千戸苗寨)、佐藤貴子(四川省、重慶市、広東省仏山市、上海市、東京)
取材協力:「味坊」梁宝璋、王宝山、小林淳一(湖南省)、陳朝琰(重慶市)、「四川料理巴蜀」荻野亮平(四川省)、佐伯悠太郎(香港・広東省)、「中華香菜JASMIINE」山口祐介(上海)
参考資料:『烧腊大王』广东人民出版社、『地道風物 湘西』中信出版集团